私たちは、医薬品や食品の安全性試験でも使用される、標準化され有効性が実証された試験により、リスク低減製品*のベイパーの毒性を評価しています。
ベイパー中に含まれる健康懸念物質の量の低減が、必ずしもヒトへの有害性を低減することを意味するわけではありません。有害性の評価には、生物学的なアプローチが必要になります。代表的な方法としては、私たちは、in silico(コンピューターによるシミュレーションを活用した評価手法)や、in vitro(微生物や培養細胞を活用した評価手法)やin vivo(生体を活用した評価手法)の評価系を用いて毒性を評価しています。原則として、私たちはin silicoとin vitroの評価系および公知化された既存情報を使用し、規制当局に求められた場合や、必要な情報を収集するにあたって代替手段がない場合のみ、in vivoの評価系を使用します。
in vitro 毒性評価
in vitro 毒性評価とは、微生物や培養細胞への化学物質の影響を評価する科学的手法です。「in vitro」はラテン語で「試験管内で」という意味で、試験容器の中で様々な条件を人工的にコントロールする試験のことです。in vitro毒性評価は、一般的に医薬品や化粧品・農薬・食品添加物等の開発の初期段階において、化学物質の潜在的な毒性の有無を確認するために実施されます。
私たちがin vitro毒性評価を実施するのは、私たちの製品の使用に関連するリスクを理解するためであるとともに、科学的な評価が十分に実施されている、という安心感を持ってお客様に製品をお愉しみいただけるようにするためです。また近年ではお客様の関心にお応えするべく、リスク低減に関する情報を直接お客様にお届けできるよう、そういった情報をお伝えする際に規制当局からの認可が法的に必要な国や地域においては、当局からの許可を得る可能性についても検討を進めています。
医薬品や食品の安全性評価に用いられている、標準化され、かつ有効性が実証されている試験手法を用いて、がんのような疾病と関連する潜在的な有害性を詳しく調査します。微生物や培養細胞を用いて、それらに与える種々のダメージを評価します。 私たちは、主としてAmes 試験・NRU試験・in vitro MN試験(in vitroコアバッテリー試験)を実施しています。
in vivo 毒性評価
in vivo毒性評価は、実験動物のような生体全体への化学物質の影響を評価する科学的手法です。「in vivo」はラテン語で「生体内で」という意味で、in vitro試験と比較して、様々な条件の人工的なコントロールを行いません。in vitroの評価系ではヒトの全身に対する影響を十分に評価することができないため、in vivoの評価は、より詳細な評価が必要な場合や規制で要求されている場合に実施されます。
疾病リスクの評価において、実験動物を用いた疾病モデルが必要な場合があるため、リスク低減製品*を評価する際に、実験動物を用いたin vivo評価を実施することがあります。
in vivo評価の一例として、動物の細胞の顕微鏡観察があげられます。(病理組織学的解析)
光学顕微鏡にて観察された肺胞上皮細胞の写真
高い倫理観を持った研究開発
原則として、私たちは製品の評価にあたって動物実験を実施せず、可能な限り代替手段を用いることにしています。動物実験が避けられない場合、たとえばリスク低減製品*の評価にあたって政府が特定の項目に関する動物実験の実施を要求しているなどの場合、私たちは実験動物のケアと使用に関する国際的な評価認証を取得した独立の試験機関と契約を結ぶことで研究を実施します。
私たちの研究開発活動は、関連する法令や業界基準を遵守し、倫理に配慮して進められています。
私たちは、「Organ-on-a-chip (生体機能チップ)」や「三次元培養モデル」等の新しい研究手法を取り入れることで、動物実験が必要な場面をさらに少なくできるよう努力しています。
三次元培養モデルと全煙曝露装置
私たちはたばこ製品から発生するエアロゾルを評価するため、新規のin vitro評価手法の開発にも取り組んでいます。例えば、ヒト気管支上皮を三次元状に再構成した培養モデルを用いて、製品使用者の呼吸器にエアロゾルが及ぼす影響を評価する試験があります。三次元培養モデルへのエアロゾル曝露には全煙曝露装置を活用しています。この装置は、製品使用者の呼吸器で起きているのと同様に、エアロゾルを三次元培養モデルに直接曝露することができます。三次元培養モデルや全煙曝露装置を用いた試験は生体で生じる影響を再現・評価できる可能性があり、将来的には動物実験代替法としての活用が期待できます。
全煙曝露装置
ヒト気管支上皮の三次元モデルの組織切片
Regulatory Toxicology and Pharmacology, 2018
Regulatory Toxicology and Pharmacology, 2018
最新技術を活用したアプローチ
私たちの製品をお客様に安心して愉しんでいただくために、最先端技術を活用した研究も積極的に実施しています。
Organ-on-a-chip technology
Organ-on-a-chip(生体機能チップ)は、マイクロ流体デバイス上でヒト細胞を培養するシステムで、最先端技術として近年注目されています。ヒトの器官・組織の環境を再現することができることから、より詳細な生体メカニズムの解析や、動物実験削減への貢献が期待されています。
チップ上の細胞核および細胞膜のイメージ
曝露シミュレーションモデル
コンピューターシミュレーションにより、たばこ製品使用時の呼吸器各部位への成分沈着量を予測します。これによりお客様の製品使用状況を踏まえた、より適切なエアロゾル曝露の評価を可能にします。
ハイコンテント解析(High-content analysis; HCA)
ハイコンテント解析は、顕微鏡と画像解析を組み合わせた、細胞ベースの評価系です。様々な蛍光標識プローブを用いることで、個々の細胞の形態的変化や細胞内の変化を画像として取得し、解析対象の変化を定量的に分析することができます。私たちは、本手法を用いることで、たばこ製品が与える細胞レベルでの生体影響(遺伝毒性あるいは細胞毒性)について、鍵となる分子レベル応答(DNA損傷や酸化ストレス、タンパク質損傷など)を多面的に解析しています。これにより、細胞レベルで確認された影響が、ヒト体内でも起こり得るメカニズムであるかを考察する評価系の構築を目指しています。
これは、細胞と特定の条件で発生する細胞内の分子を蛍光色素で染色した際の顕微鏡画像です。左の写真の細胞内には見られない物質が、右の写真の細胞内にあります。ハイコンテント解析では、こういった画像情報を用いることで、エアロゾルへの曝露の有無により生じる細胞応答の差を定量的に分析します。
Omics解析
Omicsは生体を構成するDNAやRNA・タンパク質・代謝物等を網羅的に分析する手法であり、コンピューターサイエンスを取り入れた解析を行うことにより、生体影響を分子レベルでより深く考察することが可能です。
これにより、リスク低減製品と紙巻きたばこの生体影響の相違について詳細な理解が期待できます。
コンピューター解析の様子と解析結果の一例