エアロゾルとは
エアロゾルとは、気体中に浮遊する固体や液体の微粒子と気体との混合体を指します。身近な例としては、朝もややスプレー缶から発出される蒸気・活火山から発生する煙などが挙げられます。紙巻たばこの煙や、リスク低減製品*のベイパーもエアロゾルの一種です。
紙巻たばこの煙とリスク低減製品のベイパーの違い
紙巻たばこやリスク低減製品*は、使用時にエアロゾルを吸入します。紙巻たばこの煙やリスク低減製品*のベイパーはどちらもエアロゾルですが、その特徴は大きく異なります。
紙巻たばこの煙は発生時に燃焼を伴います。燃焼は高温条件における複雑な化学反応を伴うため、紙巻たばこの煙は様々な種類の粒子を含んでいます。
これに対し、リスク低減製品*のベイパーは燃焼と比較すると非常に低温の条件で発生するため、通常、含まれる物質の種類は多くありません。そのほとんどは液体で、水・プロピレングリコール・グリセロールなどの、電子たばこのリキッド(液体)や加熱式たばこの添加物として使用される成分が液体の粒子として含まれています。
喫煙における燃焼
一般に、燃焼とは、物質と酸素が急速に反応し、熱や光・エアロゾルの発生を伴って進行する高温の化学反応を指します。
紙巻たばこの燃焼は、たばこ葉や巻紙がライターの炎などの熱源により着火されることで引き起こされます。燃焼が起こると、ニコチンなどのたばこ葉に天然に含まれている成分に加えて、複雑な化学反応により発生した物質が煙中に放出されます。こういった物質には、公衆衛生当局により健康懸念物質として提示されている物質も含まれます。喫煙が関連する疾病は、ニコチンではなくこうした健康懸念物質が関係するとされています。
ベイパー発生の仕組み
気化は、燃焼と比較すると低温の反応で、結果的にエアロゾルを発生させます。気化した液体が空気中で冷却されることで凝縮し、粒子を形成し、エアロゾルになります。この一連の過程に、燃焼は伴いません。
電子たばこにおけるベイパー発生の仕組み
電子たばこは、多くの場合たばこ葉を使用せず、ニコチンを含むリキッドを加熱してベイパーを発生させる仕組みになっています。たばこ葉の燃焼を伴わないため、通常、電子たばこのベイパーに含まれる健康懸念物質の量は、紙巻たばこの煙と比べて少ないです。
加熱式たばこにおけるベイパー発生の仕組み
加熱式たばこは、電子たばこと違いたばこ葉を用いるため、ベイパーを吸うとたばこ葉特有の味・香りが感じられます。重要なのは、電子たばこと同様、加熱式たばこも使用時にたばこ葉の燃焼を伴わないことです。そのため、通常、ベイパーに含まれる健康懸念物質の量は紙巻たばこの煙と比べて少ないです。
エアロゾルの成分分析
エアロゾル科学は、製品の研究開発において重要な役割を果たしています。製品の設計がエアロゾル中の成分に対してどのような違いをもたらすかを理解するのに役立ち、健康へのリスクを低減する可能性のある製品を開発する助けとなります。
エアロゾル科学
紙巻たばこの煙やリスク低減製品*のベイパーに含まれる成分を測定する際、専用の機械を用いて煙やベイパーを発生させます。これらをガラスファイバーフィルターに通過させることで粒子状成分を捕集します。このようにしてフィルターに捕集されたものをTPM(total particulate matter)と呼びます。ガラスファイバーフィルターに捕集されなかった成分については、成分に応じた液体に通すことで捕集されます。こうして捕集されたものをGVP (gas-vapor phase)と呼びます。
サンプルを確保した後は、液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどの化学分析手法を用いてサンプルを分析します。この手法により、エアロゾルを構成する成分を分離し、同定することが出来ます。
紙巻たばこの煙やリスク低減製品*のベイパーの成分を評価する際、ISO (国際標準化機構) [1][2]のような外部機関の策定した規格や、Health Canada(カナダ保健省)[3]の要求する手法を参照しています。
エアロゾルの測定対象
紙巻たばこの煙には、6000種類以上の成分[4]が含まれています。そのうちのいくつかは、WHO(世界保健機関)[5]やIARC(国際がん研究機関)[6]、Health Canada[7]、米国FDA(米国食品医薬品局)[8]などの規制当局から健康懸念物質に指定されています。そのため、リスク低減製品*が備えるリスク低減の可能性を評価するには、まずはベイパー中に含まれる健康懸念物質の量を知る必要があります。
一般に、リスク低減製品*のベイパーに含まれる健康懸念物質の量は、紙巻たばこの煙と比較して非常に少ないです。そのため、非常に微量の成分を測定できる、真度(正確度)の高い定量性と再現性を持った国際的な分析手法の規格が必要となります。私たちは、そのような分析手法の開発や規格化にも協力しています。
間接加熱式たばこと紙巻たばこの成分比較
エアロゾル成分分析の一例として、IT1(間接加熱式たばこ1)と3R4F(試験用標準紙巻たばこ)のTPM*を比較したデータの一部を紹介します。IT1と3R4FのTPMに含まれる成分の構成割合は以下のとおりです。写真は、IT1と3R4FそれぞれのTPMを捕集した際のガラスファイバーフィルターを撮影したものです。
✽TPMは、ガラスファイバーフィルターに捕集された成分(量)を意味します。TPM (mg)= タール(mg)+ニコチン(mg) +水(mg)
この写真はIT1のベイパーと3R4Fの煙を捕集した際のガラスファイバーフィルターの一例です。IT1ではリキッドを蒸気にし、間接的にたばこ葉を加熱しますが、そのリキッドの成分のほとんどは無色な物質です。そのため、IT1のベイパーを捕集したフィルターでは着色がほとんど見られません。一方で、3R4Fでは燃焼により色のある成分が発生するため、その煙を捕集したフィルターは色がついているように見えます。
私たちの実験では、IT1と3R4Fのエアロゾルに含まれる成分の組成が大きく異なることが分かりました。IT1のTPMを構成するのは、主に水やプロピレングリコール・グリセロールです。
本実験が掲載された論文へ:
Regulatory Toxicology and Pharmacology, 2018
Regulatory Toxicology and Pharmacology, 2018
健康懸念物質の量
様々な外部機関から提示されている複数の健康懸念物質について、IT1と紙巻たばこ(3R4F)から発生する量を測定し、1パフ(吸引)当たりの量で比較しました。
IT1から発生する健康懸念物質の量は、紙巻たばこから発生する量に比べ、大幅に低減されていました。
‐WHO(9成分)[5] :約99%低減
‐Health Canada*(44成分)[3]:約99%低減**
‐発がん性物質***(12成分):約99%低減**
* Tar, Nicotine, Eugenolは除きます
**紙巻たばこおよびIT1からの発生量が、共に定量限界以下であった成分は除き、低減率を算出しました。
*** IARCの発がん性の分類において、グループ1 (ヒトに対する発がん性がある) に分類される物質です。
Regulatory Toxicology and Pharmacology, 2018
Regulatory Toxicology and Pharmacology, 2018