室内空気環境の重要性
室内空気環境とは、一般的に私たちが普段生活する建物の内部やその周辺の空気の状態を指し、温度や湿度・気流・化学物質の濃度などが含まれます。室内空気環境は、一般的な健康状態や快適さに影響を与えうるものです。私たちは多くの時間を建物の中で過ごすため、室内空気環境について理解し、それをコントロール出来るようになれば、一般的な健康状態に対するリスクの低減やより良い環境の整備に役立ちます。
室内空気環境に影響を与えうるものとしては、建物の外の空気環境・部屋の間取り・換気設備・屋内にいる人の数やその他空気を汚す要因となるものなどが挙げられます。環境中たばこ煙もまた、室内空気環境に影響を与えることがあります。そのため私たちは、環境中たばこ煙の室内空気環境に対する影響を数十年にわたって研究してきました。室内空気環境を測定しコントロールする方法を開発することで、私たちの製品が室内空気環境に対して与える影響をより正確に理解することができると考えています。
私たちの研究では、リスク低減製品*の室内空気環境に対する影響は紙巻たばこよりも小さいことが明らかとなりました。これは、リスク低減製品*が備えるいくつかの特徴によって実現されていると考えられます。たとえば、リスク低減製品*では使用していないときにはベイパーが出ません。そのため、空気中に排出されるベイパーの全体量を抑制することができます。また、リスク低減製品*のベイパーに含まれる健康懸念物質の量は紙巻たばこの煙と比べて非常に少ないです。
環境中たばこ煙は、周囲の方々、特にたばこを吸われない方々にとっては迷惑なものとなることがあります。室内空気環境の研究を通して得られた知識や技術は、こういった問題に取り組む一助となると考えています。
室内空気環境試験
室内空気環境試験では、製品が室内空気環境に対して与える影響を測定します。測定に当たっては実際の使用状況を考慮する必要があるため、私たちの研究施設はレストランや住居のような現実の環境を再現しています。試験中は、温度や湿度・換気条件といった環境を監視したチャンバーの中で、成人の喫煙者に紙巻たばこやリスク低減製品を使用してもらいます。こういった環境条件については、外部機関により策定された規格を参照しています。
チャンバーの中から空気を採集した後は、二酸化炭素や浮遊粉じん・ホルムアルデヒドといった一般的な空気環境の指標として用いられる成分を測定します。それと同時に、ニコチン等の環境中たばこ煙の指標や、ベイパーに含まれている主要成分についても測定を行います。こうして、私たちの製品が空気環境に与える直接的な影響を知ることができます。
ほとんどの成分は国際規格に従って分析を行っていますが、まだ分析手法が確立されていない成分や高い感度での測定が必要な成分については、これまでのノウハウを活かしながら新たな分析機器を導入したり分析機器の設定を工夫したりして、分析手法を開発してきました。こういった高感度の分析手法によって、微量な物質を測定する際にも十分な精度が担保されています。これまでに私たちが取得した科学的なデータによると、リスク低減製品の室内空気環境に対する影響は紙巻たばこと比較して小さいことが明らかになっています。
室内空気環境試験に関する規格
客観性を担保しつつ、よりよい室内空気環境試験を実施するために、試験の計画にあたっては外部機関が策定した規格を参照しています。これにより、部屋の間取りや換気の機構といった様々な条件を統制することが出来ます。現時点では紙巻たばこやリスク低減製品使用時の室内空気環境を測定するための専用の規格は存在しないため、分析対象の選定や実験条件の設定に当たっては一般的な空気環境の測定に用いられる規格を参照しています。
例えば、換気条件についてはANSI/ASHRAE standards[1] - [3] や British standard[4]を参照しています。ANSI/ASHRAE Standards 62-2001 (2001) [1] は人が利用する空間に適した最低限の換気率を示す規格で、ANSI/ASHRAE Standards 62.1-2007 (2007) [2]はたばこが吸える空間と吸えない空間の両方を含む建物に対して要求される条件を示す規格です。British standard BS EN 15251:2007 (2007) [4]は、建物のエネルギー効率に影響を与える室内空気環境の指標を示した規格です。ISO 16814 (2008) [5]は、人の居住環境として適切な室内空気環境の表現方法を指定することを企図したものです。
分析対象や分析手法の詳細については、こちらをご覧ください
Regulatory Toxicology and Pharmacology, 2018
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SOCIETY FOR RESEARCH ON NICOTINE & TOBACCO ANNUAL MEETING, 2019
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Japan Society for Atmospheric Environment Annual Meeting, 2019
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室内空気環境試験の一例
私たちが飲食店の環境を再現して実施した、室内空気環境試験の一例を紹介します。この試験では飲食店の環境を再現した実験室の中で、3人の喫煙者に間接加熱式たばこ1(IT1)を使用してもらい、計18種*の物質の室内濃度を測定しました。
※本試験は、2020年3月以前に実施されたものです。現在、飲食店は原則屋内全面禁煙となっています。詳細はこちらをご覧ください。健康増進法について
* 間接加熱式たばこ1の主要添加物、間接加熱式たばこ1から発生した物質、紙巻たばこの環境中たばこ煙に含まれる代表的な物質、および室内空気環境の指標となる物質。
測定した全ての物質について、間接加熱式たばこ1使用時と非使用時の室内濃度に差は認められませんでした。
測定物質 | IT1不使用 | IT1使用 | 検出限界値 | 定量限界値 | |
---|---|---|---|---|---|
平均室内濃度 ± 95%信頼区間 | |||||
吸入性浮遊粉塵 | (mg/m3) | <0.05 | <0.05 | 0.01 | 0.05 |
紫外線粒子状物質 | (μg/m3) | <0.276 | <0.276 | 0.276 | 0.919 |
蛍光粒子状物質 | (μg/m3) | <0.006 | <0.006 | 0.006 | 0.019 |
ソラネソール | (μg/m3) | <0.713 | <0.713 | 0.713 | 2.375 |
ニコチン | (μg/m3) | <0.201 | <0.669 | 0.201 | 0.669 |
3-エテニルピリジン | (μg/m3) | <0.026 | <0.026 | 0.026 | 0.085 |
ホルムアルデヒド | (μg/m3) | 4.952 ± 0.437 | 4.837 ± 0.248 | 0.184 | 0.614 |
アセトアルデヒド | (μg/m3) | 5.948 ± 0.824 | 5.424 ± 1.078 | 0.294 | 0.979 |
アセトン | (μg/m3) | 9.403 ± 0.515 | 9.793 ± 1.183 | 0.387 | 1.292 |
トルエン | (μg/m3) | <7.143 | <2.143 | 2.143 | 7.143 |
総揮発性有機化合物 | (μg/m3) | <40 | <40 | 12 | 40 |
プロピレングリコール | (μg/m3) | <261 | <261 | 261 | 869 |
グリセリン | (μg/m3) | <248 | <248 | 248 | 828 |
トリアセチン | (μg/m3) | <264 | <264 | 264 | 880 |
一酸化炭素 | (ppm) | <0.17 | <0.17 | 0.05 | 0.17 |
二酸化炭素 | (ppm) | 590 ± 20 | 590 ± 50 | 7 | 24 |
アンモニア | (μg/m3) | 6.0 ± 5.4 | 9.9 ± 2.1 | 0.2 | 0.5 |
浮遊粒子状物質 | (mg/m3) | <0.01 | <0.01 | "測定可能最低濃度 0.01 (測定精度 ± 10%)" | "測定可能最低濃度 0.01 (測定精度 ± 10%)" |
分析対象や分析手法の詳細については、こちらをご覧ください
Regulatory Toxicology and Pharmacology, 2018
Regulatory Toxicology and Pharmacology, 2018